
世の中には実にさまざまな「HOW TO 本」が売られている。
  しかし、本当のところの、肝心なところの「HOW TO」が書かれている本は
  どこにも売っていない。
  一番肝心な事柄は、たいていナイショにされているのだ。
  
  たとえば、ここにギタ−の教則本がある。
  
  ギタ−の教則本には、ギタ−を弾くまえの準備段階として、まず、
  チュ−ニングのやり方が書かれている。
  わたしがギタ−をはじめた70年代の中期には、
  チュ−ニングメーターなど誰も所有していなかったから、
  当然そこには耳でチュ−ニングする方法が掲載されていた。
  
  まず音叉などで5弦をAに合わせ、
  次に5弦の5フレットを押さえた音に4弦の開放弦を合わせ・・・という、
  ギタ−を弾く人なら誰もが知っているアレである。
  「ではチュ―ニングが終わったところで、次にドレミファソラシドを弾いてみましょう」
  と、本は続いてゆくのだが、ちょっと待ってくれなのである。
  
  この方法でギタ−のチューニングが合うかというと、
  絶望的に合わない。
  合わないどころか、このやり方では正確に合わせれば合わせるほど
  音程のズレが広がっていってしまい、
  いつまでたってもチュ−ニングが終わらない。
  
  どういうことだ?
  なぜ合わないのか?
  どうしたら合うのか?
  
  わたしの場合、それが判るのにざっと15年はかかってしまった。
  
  ギタ−のチューニングを合わせるには、6弦と1弦を正確に合わせたら、
  あとは平均をとって合わせてゆかなくてはならない。
  弦を押さえる指の力加減によっても当然ピッチは変わる。
  このように、ギタ−というのはアバウトでフィジカルな楽器なのである。
  さらにギタ−個々の構造や癖を理解し、
  日々の気候が木材に与えている影響などを考慮して、
  ネックなどのセッティングを、そのつど修正する必要がある。
  
  オクタ−ブチューニングがうまく調整されているかどうかも、重要なポイントである。
  
  ところが、少なくともわたしの読んだ教則本には、
  そんなことは一言も書かれてはいなかった。
  
  おかげでわたしは
  「自分は音感が悪いからチュ−ニングがうまくできないのだ」
  と思い込み、
  チュ−ニングというものに対して歪んだ劣等感をいだき、
  毎日ギタ−を手にするたび、やる瀬のない溜息をついてきた。
  ステ−ジ上でチュ−ニングをしなくてはならないときには、冬でも大汗をかき、
  チュ−ニングの微妙な狂いを、ひきつった笑いでなんとかごまかしてきた。
  昔、一緒にバンドを組んでいたべ−スのバカボン鈴木に
  「気合が足りん!」
  と、竹刀で叩かれたこともあった。(うそ)
  
  しかし今となって思えば、わたしは決して音感が悪いわけではなかった。
  単に、チュ−ニングの正しい「HOW TO」を知らなかっただけなのだ。
  
  「いったい、どうしてくれるんだ」
  と、いいたい。
  この件に関する責任者がもしいるなら、出てきてほしい。
  そして、なぜ、こういった肝心なことをナイショにしているのか答えてほしい。
  わたしは、全日本チュ−ニング協会の会長にむかってこう叫びたい。
  「わたしの苦節15年を返してくれ!」と。
  
  だから
  「ギタ−のチューニングがいまいちうまく決まらない」
  と、お嘆きの貴兄にこう言おう。
  それは、あなたの音感が悪いせいではない、と。
  ギタ−には、本には書かれていないナイショの話がたくさんつまっているのだ。
  
  
  

カ−ペンタ−ズ 1981 
  
  カ−ペンタ−ズのラストアルバム。
  ジャケットが驚異的にダサいのであまり期待せず、今ごろ聴いてみたが、
  これがなんと大傑作!
  こんなに気持ちがさっぱりする音楽は、他に類を見ない。
  爽やかなサイダ−のようなアルバム。
  
2008 5月
 誰も教えてくれなかった HOW TO の話