
「小さな犯罪者」  ランディ・ニュ−マン    1977
  
  
  「ショ−トピ−プル」のほか
  「太ったやつを馬鹿にはできない」なあんて曲も収録。
  「陽気なおまわりさんの行進」も皮肉たっぷり。
  確かにこの人、顔だけ見てもかなりヒネクレていそう(へんけん)。   

この曲は1977年に発表され、全米2位になったのだが、
  内容が差別的であるという理由から、
  多くの州で放送禁止になってしまった問題作である。
  
  背の低い人達のことを、これでもかというほど、バカにしている。
  さて、この曲の裏にいったいなにがあるのだろうか?
  
  まずこの歌詞は、作者自身の見解ということではなく、
  この詞のような、差別的なものの見方をする人のことを歌にした、
  ということであると思う。
  でないと、聴いている人は(特に背の低い人は)
  作者に対して、ただただ怒り狂うこととなる。
  (しかし、まあ、真意は作者本人にしかわからないが…)
  実際、当時のアメリカのロックシ−ンでは、
  この曲はさまざまな論争を巻き起こしたのだった。
  (日本ではさほど話題にもならなかったけどね)
  
  なぜ「背の低い人」をタ−ゲットにしたのかについては、諸説ある。
  
  どこにでもいる「ショ−ト・ピ−プル」を蔑視することで、
  差別そのもののバカバカしさを表現しているのだ、とか。
  
  これは「背の低い人」ではなく、
  心が「ショ−ト」なピ−プルについて歌っているのだ、とか…。
  
  この曲が発表された1970年代の終わり頃は、
  日本企業をはじめとするアジア系企業が続々とアメリカに進出し、
  アメリカの産業を侵食しはじめた時代であり、
  低賃金でよく働く「ショ−ト・ピ−プル」であるアジア人に対して、
  失業しそうになったアメリカの労働者のおっさんが
  ぶちぎれているさまを歌にしているのだ、とも言われた。
  
  しかしこの曲は何よりも、メロディ−が奇跡的なまでに良いのである。
  
  やさしさに満ち溢れた旋律が、このキツイ歌詞に、
  言葉では言いあらわせられない別の側面をあたえている。
  このメロディ−がなければ、このシニカルな歌詞は
  ただシニカルなだけで終わっていただろう。
     人類はみな兄弟  なんて素晴らしい世界
  というくだりのトホホ感もよくでている。
  
  アレンジも演奏も一級品である。
  
  ウエストコ−ストのトップミュ−ジシャンたちが集結し、
  とんでもない演奏をくりひろげている。
  当時アメリカで人気のあった
  リトルフィ−トとオ−ルマンブラザ−ズバンドをもじったような言葉が
  くすぐりとして挿入されていて、これにもニヤリとさせられる。
  
  しかし世の中には、
  このような歌詞をそのままストレ−トに受け取ってしまう人がいるから
  コワイんです。
  
  昔、高田渡が「自衛隊に入ろう」という曲をつくった。
  これは自衛隊の募集広告をおちょくった反戦歌であったのだが、
  なんとその曲を防衛庁が「自衛隊のPRソングにしたい」と申し入れてきたそうな。
  さらにその曲を聴いて、
  本当に自衛隊に入ってしまった人がたくさんいたというから…。
  
  
  そしてその後、この曲も、ご多分に漏れず放送禁止になってしまったのだった。
  いったい誰が決めてんねん、そ−いうの。
  
  
               (Bへ続く…)
2008 10月
    歌詞は曲の生命線である。A