2008 11月
歌詞は曲の生命線である。B
「兵士の物語」 ストラヴィンスキ− (1918 初演)
音楽に物語の朗読が乗っかっているユニ−クな作品。
悪魔に「魂のバイオリン」を売って、巨万の富を得た一人の兵士。
しかし、ひきかえに彼が失ってしまったのは「愛」であった。
バイオリンを取り戻すために、悪魔との戦いが始まる。…その結末やいかに?
なんとまあ、今の時代にぴったりの話ではございませんか!
「兵士の物語」演奏会用組曲 (1920 初演)
第一次大戦、ロシア革命に巻き込まれ、
ジリ貧の亡命生活をよぎなくされていた頃の作品だという。
こちらは演奏のみのヴァ−ジョン。
研ぎ澄まされたストラヴィンスキ−節が、たっぷり堪能できる。
本ブログ8月号で紹介したゴドレ−&クレームの「Consequences」に入っている、
なぜか誰も知らない(いや、ほんと)名曲である。
眠れない…眠れない…
主治医は わたしが病気であるという
少なくとも3週間はベッドに寝ていなさい と
そんなことをしていたら 気が変になってしまう
弁護士は わたしの立場は弱いという
目撃者は証言を拒否
裁判官と陪審員には お手上げだ
上司が背中ごしに言う
この部門の仕事は
わたしのせいではかどっていないようだ と
まだ13歳にならない下の子がいう
「パパ、あっちへ行ってて、じゃまだから」
上の子もいう 「パパ、しんじゃえ」 と
ああ うまくいかない なにもかも
うまくいくことなんて めったにない
ああ うまくいかない なにもかも
うまくいくことなんて めったにない
この対訳だけを読むと、ただただ悲惨な日常である。
絶望的な現実である。
ところがお聴きのとおり、
この歌詞がじつにウキウキするような軽妙なメロディ−で歌われる。
するとどうだろう!
胸の中にあたたかな共感が、じんわりと湧いてくる。
最初、この曲を聴いたときには
まさかこんな悲惨なことを歌っているとは、露ほども思わなかった。
(…Cへつづく)