2008 11月
  歌詞は曲の生命線である。B

「兵士の物語」 ストラヴィンスキ− (1918 初演)

音楽に物語の朗読が乗っかっているユニ−クな作品。
悪魔に「魂のバイオリン」を売って、巨万の富を得た一人の兵士。
しかし、ひきかえに彼が失ってしまったのは「愛」であった。
バイオリンを取り戻すために、悪魔との戦いが始まる。…その結末やいかに?
なんとまあ、今の時代にぴったりの話ではございませんか!

         (…先月よりのつづき)

わたしの場合、
なにかの明確な意図をもって曲を作ろうとすると、
どこかわざとらしく、不自然なものになってしまうことがよくある。
逆に、なにかの意図をもって曲を作り始めても
作業の途中で突発的なことが起こり、
結果的に、最初の意図とはかけ離れたものが出来上がってしまうことがある。
実は、そのようなときの方が「まあまあマシなもの」ができている気がする。

言葉とメロディ−、ふと弾いてしまったギタ−のフレーズ、
突然起こった最悪な出来事…。
様々なものに触発されて、
曲はある日、突然に産まれてくる。
そして偶然に起こった一つのきっかけが、次のきっかけを連れてくる。
偶然がいくつも積み重なって、うまくゆけば必然になってゆく。
連鎖反応を止めることはできない。
曲は自然と育ってゆく。
わたしにできるのは、連鎖反応の「方向」が変な方へまがって行かないよう、
ハンドルを握っていることだけだ。

そんな過程でのハイライトとでも呼べるのが
詞が曲に「ハマる」瞬間である。
これがうまくいった時には
わたしは最低でも、3日間はハッピ−でいられる。



そのD  『When Things Go Wrong』   (詞・曲 ゴドレ−&クレーム)

「兵士の物語」演奏会用組曲 (1920 初演)

第一次大戦、ロシア革命に巻き込まれ、
ジリ貧の亡命生活をよぎなくされていた頃の作品だという。
こちらは演奏のみのヴァ−ジョン。
研ぎ澄まされたストラヴィンスキ−節が、たっぷり堪能できる。 

本ブログ8月号で紹介したゴドレ−&クレームの「Consequences」に入っている、
なぜか誰も知らない(いや、ほんと)名曲である。


     眠れない…眠れない…

    主治医は わたしが病気であるという
    少なくとも3週間はベッドに寝ていなさい と
    そんなことをしていたら 気が変になってしまう

      弁護士は わたしの立場は弱いという
      目撃者は証言を拒否
      裁判官と陪審員には お手上げだ

    上司が背中ごしに言う
    この部門の仕事は
    わたしのせいではかどっていないようだ と

      まだ13歳にならない下の子がいう
      「パパ、あっちへ行ってて、じゃまだから」
      上の子もいう 「パパ、しんじゃえ」 と

       ああ うまくいかない なにもかも
          うまくいくことなんて めったにない
       ああ うまくいかない なにもかも
          うまくいくことなんて めったにない


この対訳だけを読むと、ただただ悲惨な日常である。
絶望的な現実である。
ところがお聴きのとおり、
この歌詞がじつにウキウキするような軽妙なメロディ−で歌われる。
するとどうだろう!
胸の中にあたたかな共感が、じんわりと湧いてくる。
最初、この曲を聴いたときには
まさかこんな悲惨なことを歌っているとは、露ほども思わなかった。
       
           (…Cへつづく)