2009 5月
    「PMA-390、今昔物語」

15年余りもの長期に渡り、酷使し続けてきた、デンオンのPMA-390が使えなくなった。

ステレオのプリメインアンプである。

なお、デンオンは今では「デノン」というらしい。
わたしなどは、なぜか気恥ずかしくて、未だにデンオンとしかいえない。
歳をとるにつれて、頭がどんどん頑固になってきているせいだろう。
新しいことに対する適応能力が落ちている。

そんなことを反省している場合ではない。

このPMA-390というアンプは、
「わりと本物らしい音がする激安アンプ」として、
エコノミックオ−ディオ界(そんな界があるのか?)における銘機中の銘機であった。
接触不良をおこしているだけなので修理をしてもよいのだが、
この際、買い換えることにした。
どんなアンプが出ているのか調べてみた。

そこでわたしは愕然となった。

ないのである。

なにがないって、メ−カ−がない。

山水、Lo-D、NECがないのはもうとっくの昔の話であるが、
テクニクスというメ−カーも、今はもうDJ機器しか作っていないようだ。
さらに、ソニー、ケンウッド、パイオニア、ヤマハ、オンキョーなども、
アナログピュアオ−ディオの世界からはするすると手を引きつつある雰囲気。
アンプひとつ買うにしても、かつてはあんなに選択肢があったのに、
この衰退の有様はなんだ。
だから前にも言ったろう。
「アナログレコードを見捨てたりするからこんなことになるんだよ!」
と。

逆にわけのわからんものが売られている。
5.1チャンネル、とか。
広い音場を再現するというのはわかるが、わたしなどはあれを聴いていると
音の定位が気になり、頭が動かせなくなって、どっと疲れてしまう。
これも、頭が頑固になってきているせいですと診断されてしまうんだろうか。
あと、
「デジタルアンプ」ってなんだろう?
カタログを読んでも、なにがどう「デジタル」なのか、さっぱりわからない。

いくらエコノミックとはいえ、わたしの志向はあくまで
「アナログ&ピュア」なのである。

結局「デンオン」しかないようである。

PMA-390AE。

わたしの所有している銘機PMA-390が、モデルチェンジしているのであった。
調べてみると、15年間の間に4回モデルチェンジしている。
PMA-390
PMA-390U
PMA-390V
PMA-390W
PMA-390AE
といった変遷をたどっているようである。
なかなかよくやっている。
さすが銘機と呼ばれるだけのことはある。

さっそく立川のビックカメラに買いに行った。
ところが、なぜか値札が裏返っている。
どっかの子供のイタズラだろうか?
これでは値段がわからないではないか。
店員に訊ねると
「このアンプはモデルチェンジするので、もう入荷しないのです」
おいおい、5回目かよ。
わたしはあせった。
こんな事を書くと「デノン」のひとに怒られるかもしれないが、
昨今、この経済大不況の最中のモデルチェンジである。
メ−カ−としては利益を確保するために、パーツをケチりまくるんじゃなかろうか?
そんな妄想が頭をよぎった。
急いで帰宅し、ネットで調べてみると、
在庫のある店で、ジリジリと値が上がっている。
1ヶ月前までは26000円くらいで買えていたようなのに、
今は最安の店でも29000円になっている。
わたしはあわてて「発注」のボタンをクリックした。
すると次の日、同じ店のサイトで32000円につり上がっているではないか!
「ボクが注文したのは29000円のやつですよね」
と、確認の電話を入れてしまったほどである。
恐るべし、非情なる流通の世界…。

ややあって、29000円の
PMA-390AEが我が家へやってきた。

初代モデルと比較してみると、入力セレクターがカッチンカッチンと音をたて、
リモコンで切り替えられるようになっている。
ボリュームつまみまでもが、リモコンでくるくるまわる。
なんなんだこれは!
わたしは細長いリモコンを握りしめ、しばし茫然となった。
ピュアオ−ディオにあるまじき不浄な機能…。
しかし、便利である。
音的には高域がさらさらとキレイになっている半面、
低域のどっしり感はうすれた。
「本物らしさ」が、ややなくなってしまった印象がある。
けれどさほどの差はなく、3日程聴いていると気にならなくなった。

ひとつショックだったことがある。
それはMCカ−トリッジの入力が省略されてしまっている点である。
「さすれば、あなたはMCカ−トリッジをお持ちなんですね」と訊かれれば、
くやしいけれど持っているわけではない。
針の交換にさえ10000円以上もかかるMCカ−トリッジは、
ワーキングプアーエコノミックオ−ディオマニアである井形大作にとっては、
禁断の果実なのである。
しかし、いつの日かきっと、この禁断の果実をかじってみたい。
そう夢見て、人生をおくってきたわたしなのである。
初代PMA-390の裏パネルについている、MM・MCの切りかえスイッチを、
ときどき用もないのに切りかえてみては、
将来に夢を馳せていたわたしであったのに…。
まあ、
「今さらこんな激安アンプにMCを突っ込むアンバランスな貧乏人などいまい」
という、メ−カ−の常識を重視した判断なのであろう…。
だがわたしの胸の中にちいさく灯っていた灯火がひとつ、
ふっとかき消えたのは確かであった。