今年も路上ライブの季節がやってきた。

路上ライブに季節があるのか?

ない人もいる。

例えば、気温のことは全く意に介さず、
どんなに寒かろうがトナカイの着ぐるみをかぶって
渋い地声で八代亜紀の「舟歌」を歌いまくる
off-Gさんや
極寒の渋谷や有楽町の駅前で、氷のように冷たくなった手を震わせながら
「目指せ武道館単独ライブ」の看板を掲げて
キ-ボ-ドで健気に、家族の愛について弾き語る、詩愛(しおん)さん。

それにひきかえ、私は寒いと何もする気が起らない虚弱体質である。

家の前でPAの荷作りをしていると、
ギタリストでもあるアパ-トの大家さんに見つかった。
「何やってるの?また駅前で歌うの?
偉い!
と、ほめてくれた。

くにたち駅南口の、いつものところに陣取り、歌い始める。

ここで歌い始めてもう3年目であるので、もうすっかり慣れたものである。

近くでティッシュ配りをしているお兄さんがこっちへやってきて、
私の演奏をほめてくれた。
「仕事がなければビ-ルでも買ってきてゆっくり聴いていたいですよ」
と、言ってくれた。
こういうのが一番うれしいね。

しかし、30分もしないうちにトラブル発生!

PAからの音声が、プッツリ途切れた!

調べてみると、電源切れである。

このPAは、単3電池8本で動いているのであるが、
昨日エネル-プの充電を忘れたのである。
「だあいじょぶだろ」
と高を括っていたのが甘かった。

近くにコンビニはあるが、
機材をほったらかしにして電池を買いに行くわけにもいかない。

万事休すか!

と、バレ-ア-ツストラトをぶらさげたまま、音の出ないマイクの前で
しばし呆然となっている私に、救世主が現れた。

さっきの、ティッシュ配りのお兄さんである。

お兄さんが機材の見張りをしていてくれるというので、
電池を買いにゆくことが出来たのである。ああ、何という幸運!

気を取り直して、その後約1時間ほど、無事に歌うことが出来た。

もうちょっと歌っていてもよかったのであるが、
風が強くなってきた。
強くなってきたどころか、嵐のような暴風である。
通行人は足早に、逃げるように去ってゆく。
夕立が来そうな雰囲気である。
エフェクタ-ケ-スの中に、細かい枯葉やほこりのような物も溜ってきた。

帰り支度をしていると、黒いウインドブレ-カ-を着て買い物袋を下げた、
絶対ライブハウスになんかには来なそうな
地味なおばさんが近寄ってきた。

「もうおわりですか」
と訊く。
「今日はもうおわりです」
と答えると、
「もうおわりですかぁ~」
と、残念そうにしている。

時々、このような人がいるのである。
つまり、私からは見えないところで、こっそり(?)聴いている。

聴いていてくれるのがわかったら、あともう何曲でもやったのにぃ!(笑)


    ※暴風の中での演奏動画は
こちら





                        

2014 5月
   「5/3 路上ライブ日記」