先月は、レコ-ド針であれやこれやとやっている話を書いた。
そこで今月は、
アナログレコ-ドとCDとではどちらが音が良いか、真剣勝負をさせてみよう、
と考えた。

夏休み特別企画である。

「キミはいったい、今さら何をヒマなことをやっているんだ」
と、呆れないでほしい。

わたしこと井形大作には「CDよりアナログ盤のほうが音が良い」という、
確固たる先入観がある。
夜、わたしは音楽を聴きながら入眠する習慣がある。
なぜかアナログレコ-ドをかけている時のほうが、気持ちよくおやすみができる。
実はアナログレコ-ドもCDも、パソコンに取り込んで
しかもかなり小さな音で聴いているのだが、それでも違いを感じる。

アナログレコ-ドを聴いている時のほうが「音楽を楽しんでいる感」が強い。
これがCDだと、
ただ音を確認しているだけのような、
カップめんやレトルトカレ-を食べているような、
どこかチ-プで余裕のない雰囲気がつきまとう。

これはいったい、どういうわけなのであろうか?

わたくし、齢47歳の夏をむかえるにあたり、
この問題について、きっちりかたをつけておくべきであると考えたわけである。

ジャズ、クラシック、ロックの各ジャンルから、
同じタイトルのアナログ盤とCDを用意した。
いわゆる「名盤」と呼ばれるスタンダ-ドなものの中から、
CD化の際に手を加えられていなさそうな
(CDのパッケ-ジにリミックス、リマスタ-などと謳われていない)
ものを選んだ。
レコ-ドはわたしの所有物。CDは立川図書館から借りてきた。

使用機材はエコノミックオ-ディオマニアである、わたしこと井形大作が
選りすぐって使用している以下のようなものである。

☆レコードプレーヤ- … デンオンDP-37F
☆CDプレーヤー   … ヤマハCDR-HD1300、パナソニックSL-S490
☆プリメインアンプ  … デンオンPMA-390AE
☆モニタ-     … タンノイReveal、セレッション3、ソニ-MDR-CD900ST

その他に、CD、アナログ、双方を、パソコンに取り込んでの比較もしてみる。

さあ、それではまず第1ラウンド、ジャズからいってみよう。
か-ん!

   ◎ジョン・コルトレ-ン「マイ・フェイバリット・シングス」(1960年録音)

CDとアナログレコ-ド、それぞれを聴き比べてみると、あきらかに違う。

まず、音の定位が違う。

CDでは左右の音がセンタ-に寄っている。
そして、低音に厚みが加わっている。
これはどういうことだろう?

推察するに、当時はまだマルチレコ-ダ-は使っていないと思うので、
これはリミックスではないはずである。
ということは、
マスタ-のステレオトラックのパンをいじっているのではないだろうか?
ステレオトラックのパンをセンタ-に寄せると、低音が厚くなる。
ミキシングコンソ-ルを操作したことがある人ならば、
誰もが知っている事実である。
あたりまえだのクラッカ-なのである。

ちょっとまってくれ。

そんなことをしていいのか?

と、わたしは仁王立ちになった。

確かに現代のミックスの基準からすると、
この時代の録音は左右が離れ過ぎてはいる。
ステレオ録音出はじめの頃なので、
ステレオ感を強調するがゆえのことであろう。
コルトレ-ンのソプラノサックスは右端、
マッコイ・タイナ-のピアノは左の隅のほうで鳴っている。
しかし、これを単にパンで中央に寄せて
「ハイ、今風になりました」
などという、子供だまし的なやり方で解決して良いはずはない。
オリジナルの音質を損ねてしまうからである。
映像に例えるならば、
縦横の比率を変えて絵を歪めてしまっているようなものである。

この意外な事のてんまつに呆然となったわたしは、
再度立川図書館へと、汗をかきかきチャリを走らせた。

もう1枚、同時代のCDを借りてきた。

ビル・エバンス「ワルツ・フォ-・デビ-」(1961年録音)

するとどうだろう。
驚いたことに、このCDにも全く同じ処理が施されているのである。

このCDはライヴ盤であるが、
アナログ盤と比べると、客の咳払いまでもがセンタ-に寄っている。
これはもう、アナログがどう、CDがどう、とかいう音質の比較以前の問題である。
やってはいけないことをやっている。
わたしならこんなCDは、即、返品である。

音質の方はというと、CDの音も悪いとは思わない。
が、やはりちまたでの定評どおり、高音域がやや詰まったように聴こえる。
シンバルの抜けはアナログレコ-ドのほうが爽快である。
CDは、定位が中央に寄っていることとも相まって
上下左右、急に狭い部屋に押し込められたような窮屈さを感じる。
低音に厚みがあるぶん、ぱっと聴きには迫力があるともいえるが、
耳が疲れて長時間聴いていられない。
一度通して聴くと、「もう当分は聴きたくない感」につつまれる。

この第1ラウンド、
かような予想外の展開もあり、アナログレコ-ドの圧勝となった。
もしくは、CDの反則負けというべきか…。

       …次号へ続く…

                          


 

2009 7月
    「対決!アナログレコ-ド VS CD」(ジャズ編)